“かくしごと”  『初々しい二人へ10のお題』より

 


この冬は久方ぶりの厳寒となった。
日本海側は次々南下して来る寒気にさらされ、
容赦なく降り続く雪への対処に日々追われているそうで。
夏があんなに暑くって、秋も随分と長っ尻だったのとの、
これもある意味、帳尻合わせなんだろかしらねと、
まずはのウォームアップのランニング中、
白い息を吐きつつ呟けば。

 『逆の咬み合わせなら納得行くけどよ。』

夏は人死に出そうに暑くて、
冬がまた半端じゃなく寒い“帳尻合わせ”なんて、
そんなもん ちっとも嬉しかねぇわいと。
ライン担当の黒木くんや戸叶くんに、
八つ当たりっぽくドヤされちゃったっけ。

 「……えっとぉ、南口だったよね?」

今日もやっぱり、風が冷たい午前となって。
一応は晴れていての陽射しは明るいのに、それでも空気は冷ややかで。
雪が降らないだけ まだマシなんだろうけれど、
ダウンのジャケットが手放せないほどの、
凍るような寒さというのは、やっぱり馴染むのが難しい。
それでも、あのね?
アメフト始めたからだろね、
高校に上がってから、滅多なことでは風邪も拾わなくなったよな。
………え?
一度だけ寝込んだことがあったでしょって?
えっとえっと?

 “………あ、ああああ。
  えっと、はい。一度、ありましたね。////////”(『葛湯』参照)

  真っ赤になったは北風のせいではなかった、
  そんな脱線はともかくとして。

学生アメフトは年越しと共に一段落ついた。
日々のトレーニングは欠かせないけれど、
それでもね?
次のシーズンの幕が上がる春までは、
肩から力を抜いてもいいインターバルだから。
練習の有る無しとそれから、
勝ち進んだ結果の最後の最後、
決勝近くでの対戦相手に
なり得る対象だということも重なって。
あんまり落ち着いて逢う機会を作りにくかったのが、
やっとこ払拭されるから…あのあのね?///////

 『そうだな。週末は自主トレしか予定はないぞ。』

そうそうそれと、
私立高校でもある王城や泥門は、
二月に入ったらすぐにも
受験生を迎えての入試があったりする関係で、
構内への立ち入りが禁じられる期間も
割と早いめに始まったりしちゃうので。
それが落ち着くまでは自ずと学内での練習はお預けとなりがち。
…なので、えっとあの。///////

 『でしたら、あのあの。///////』

逢えませんかと、えいっと聞いてみたところ。
何の用件でと訊かれることもなくの
“構わんぞ”という即答のお返事いただいたセナくん。
うひゃあvvと躍り上がってから、
えっとえっと、じゃあえっと、
スポーツ店を見て回って、本屋さんも回りましょうね。
あ、そうだ、
靴下屋さんがバーゲンしているそうなので、
レッグウォーマとか、良いのがないか見たかったんですよね…と。
可愛らしいプランを並べるの、
それこそ微笑ましいなというよなお顔になって、
見守ってくれた進さんで。

  プランニングの段階から楽しみなら、
  それは間違いなく“デート”に等しいお出掛けでvv

ああでもでも、しまったな週末は人出も多い。
しかも寒いもんだからと、
建物の内側よりも日なたへと出て来る人も多い。
改札前の待ち合わせも、日陰には立ちたくない人が多いせいか、
妙に混み合ってるように見えてしまって。
これじゃあ探すの大変かも…と思った端から、

 “………あ。/////////”

小さな韋駄天くんの憂慮なぞ蹴飛ばすように、
あっさりと見つかった彼の人は。
特に目立った威容を振り撒いてもなく、
派手ないで立ちでいる訳でもなかったのにね。
落ち着いた濃色のシンプルなジャケットコートを着ていて、
ボトムは紺色の、スポーツウェアっぽいカーゴパンツ。
どうかすると制服並みに地味すぎる取り合わせで、
しかもしかも、柵に凭れて小さな文庫本を読んでいる姿は、
何かの陰と間違えられそうなほどの、
音無しの構えだったりしたものだから、

 “それほど本へ集中しているんだな。”

別段、始終 威圧を巻き散らかしてる人じゃあないけれど。
それでも存在感は人一倍ある人だから、
こういう待ち合わせを構えると、
女子大生のお姉さんたちに寄ってたかられることもある
困った偉丈夫さんだったりするのだが。
今日はそうとは運んでないようで、
そこへとホッとすると同時、

 “うあ…vv”

無心になっての伏し目がち、
視線を少ぉし落とした横顔は、何とも端正でカッコよくって。
何て言ったらいいんだろ、
黙って本を読んでるだけなのに、
男臭さと知的さが、丁度のバランスで合わさっていて。
人といるときは相手を真っ直ぐ見据える人なので、
横顔とかああいう角度のお顔は、
こんな風に離れてないと、お目にはかかれない希少な眼福。

 “う〜んと。//////”

でも、だからって、いつまでもお待たせする訳にもいかないし。
出来るだけ長く見てたいんならば、

 “こそ〜りと近づくしかない、よね?”

そちらへと向かう、
元気で威勢のよさげな女の子たちが通りかかったので。
これ幸いと、そのすぐ後ろへと居並んで、
自分の気配は消えるんじゃなかろかとの期待を持って、
通りすがりを装っての…お顔も真っ直ぐ前を見て。
出来るだけ気づかれないよに構えたはずが、

 「…………、?」
 「あ。////////」

何で…何でだろ。
他にも人は一杯いて、
お母さんに手を引かれてた小さな坊やが、
ぱたたんと靴底を鳴らして撥ねて見たりもしていたし。
背後のやや下の方からは、
JRの列車が次々に発着する気配も届いていたし。
レギンスだかパギンスだか、
脚のラインもあらわなタイツもどきだけを重ね履き。
超ミニのスカートだがホットパンツだか、
この寒さの中でも履きこなすお嬢さんたちが。
お元気そうに闊歩しつつ、
不意に“きゃあっvv”とはしゃぐ声だって立ってもいた。
そのっくらいにぎやかでもあったのに、
なかなか顔を上げなかった進さんが。
何で気づいたものなのか、
丁度真ん前を通りかかったその間合い、
名を呼ばれたからとでもいうような、
さも自然な様子でパッとお顔が上がった進さんだったので。
悪戯してたのあっさりバレたような、
そんなドッキリ、感じてしまったセナくんだったりし。

 「早かったな。」
 「えと…はい……。///////」

こんな雑踏の中だのに、
しかも、こそりと静かに近寄ったはずなのに。
何でどうしてと訊きたかったけれど、
本を閉じてのジャケットのポケットへとしまい込み、
柵から身を起こしたそのまま、
“さあ何処へ行く?”というお顔で向かい合われてしまうと、

 「…えと。まずは本屋さんへ寄りたいです。」
 「ああ。」

相槌の代わりみたいに、目許をかすかにたわめるのが、
ああ、何か暖ったかいじゃないですかと。
セナくんの側も、
あっさり絆されてしまっているのだから世話はなく。

  そうそう、
  スポーツ店ではNFLの
  プレーオフのVTRが流れているかも知れませんよ?
  えとそれから、ペットショップにも寄ってっていいですか?
  タマの猫ベッドの中敷き、
  バーゲンだったら買って来てって頼まれてしまって。
  そいで…、あわわっ☆

ダウンをまとった小さな連れが、足元不如意でつまづきかかるの、
ひょいと抱えて防ぎとめる呼吸も相変わらずの。
何とも微笑ましい二人連れは、
実はここでは結構人目を引いていての有名な顔触れだってこと、
知らぬはご当人たちばかりなり…だったりする、
そんなQ駅前の冬場の一景だったり致します。






  〜Fine〜 11.01.20.


  *正確には“隠しごとなんて出来るのかな?”になっちゃいましたな。
   それにつけましても、この冬は寒いっ。
   冬は冬らしくなのが順当ではありますが、
   その直前が、
   残暑厳しくてなかなか涼しくならなんだ、
   困った晩秋だったもんだから。
   切り替えの落差が大きすぎ、
   反動に振り回されてる今日このごろですもの、
   ええい、まったくもう。


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